さんぽ日和

翻訳者・翻訳コーディネーターが日々の散歩中に考えたことを書いています。家族のこと、仕事のこと、自分の身の回りで起きたこと、いろいろなことを考えながら歩いています。

『もうめちゃくちゃ杯』に参加して

あっという間に終わった3月だったけど、私にとっては特別な一ヶ月だった。翻訳者コンペ『もうめちゃくちゃ杯』に参加したからだ(詳しい背景や内容についてはこちら)。

 

このコンペが開催されることは編集担当の伊皿子さんのツイートを追っていたので早い段階で知っていた。冷静に考えれば、私にはまたとないチャンスで、挑戦しない理由などひとつもない。それなのに当初はとにかくビビりまくり、「まだ自分には早い」とか「他の仕事があるから」とかできない理由を並べ立てた。今なら分かる。挑戦した結果、厳しい現実を突きつけられるのがひたすらに怖かったのだ。「いつかやりたい」という思いは長い間大切に大切に奥の方にしまい込んでしまっていたから、表に出したら粉々に砕け散ってしまうんじゃないかと怯えていたのだと思う。

 

それでもやはり、ふと気付くとコンペのことが気になってしまう自分がいた。結局、ゴチャゴチャ・・・・・・と考えて考えて、「やらないと絶対に後悔する」という結論に達した。こういうときのネチネチ感ときたら、ホント、自分がイヤになる。そのときの自分に「当たり前じゃん!」とスパッと言い放ってやりたい。

 

結果、第一次選考と第二次選考を経て、最後の一人には選ばれなかった。

挑戦した以上、目指していたのは当然“最後の一人”だったわけで、残念でならない。

 

でも、挑戦して良かったと心から思っている。課題に取り組んでいる期間、つまり、結果が出るずっと前から、それは感じている。

 

まず、あんなに儚げに思われた「いつか・・・」という思いは、予想以上にたくましく、今も健在だ。

いつかたくさんの人に寄り添える本の翻訳がしたい!

その思いは今や太字にできちゃうほどに堂々とここにある。

 

他にも得られたものはたくさんある。

 

ひとつは経験。一冊の本を訳すというのはとても大変なこと、というのは今までもいろいろな人に教えてもらってきた。でも実際に、限られた期間にその一部を訳してみないと分からなかったことは山ほどある。一冊をまるっと、となるとまた想像を超える世界なのだろうと実感した。

 

もうひとつは今後に向けての課題。現時点で持てるものをすべて出し切ったにもかかわらず、少なからず、最後まで納得のいく訳にたどり着けなかったところがあった。そういう部分はたいてい、実体験が伴っていないために登場人物に憑依しきれないことが原因だったように思う。日ごろから本を読んだり、文章を書いたりということは当たり前だけど、日々の生活で何かを積極的に感じ取ったり、それについて深く考えてみたりすることの積み重ねが今後の課題。

 

最後に、「もうめちゃくちゃ杯」に関して翻訳家の村井理子さんと編集者の伊皿子りり子さんがtwitterやHPを通して出されたコメントのひとつひとつ。詳述は避けますが、どれも深く突き刺さって、大きな大きな力になりました。このままこの道を進んでいいんだと言ってもらえた気がしています。本当にありがとうございました。

 

第二次の課題に取り組んでいるときにふと、「これは、私じゃない誰かの方が上手く翻訳ができるのかもしれない」と弱気になったことがあった。そのときは必死に振り払って課題に集中したつもりだけど、結果が出た今、それが確信に変わりつつある。とても悔しいけど。だからこそ、訳書の刊行を心待ちにしています。

 

「もうめちゃくちゃ杯」。ここがきっとすべてのはじまり。